鳥海ダム完成イメージ

鳥海ダム完成イメージ

鳥海ダムって?

鳥海ダムは、子吉川上流の由利本荘市鳥海町に建設中の、洪水調節、流水の正常な機能の維持、水道用水の供給、発電を目的とした多目的ダムです。

秋田県が昭和45年4月から予備調査を始め、昭和63年4月から国の事業として建設省東北地方建設局秋田工事事務所(現在の国土交通省 東北地方整備局秋田河川国道事務所)が調査を引き継ぎました。その後、平成5年4月には鳥海ダム調査事務所を開所し、実施計画調査を開始し、平成27年4月には鳥海ダム工事事務所となっています。

鳥海ダム事業

ダム及び貯水池の諸元

ダム型式 台形CSGダム
ダム高 81.0m
堤頂長 380.4m
堤頂標高 EL.423.0m
堤体積 143.8万㎥
集水面積 83.9K㎡
湛水面積 3.1K㎡
総貯水容量 4,680万㎥
洪水調節容量 2,100万㎥
利水容量 1,800万㎥
堆砂容量 780万㎥
目的 F.N.W.P

F: 洪水調節
N: 流水の正常な機能の維持
W: 水道用水
P︓発電

鳥海ダムの基本理念

鳥海ダム工事事務所では、より地域に密着したダム・貯水池の整備を進めるために、平成8年10月に住民代表、学識経験者らによる「鳥海ダム懇談会」を開催し「鳥海ダム基本理念」を定めました。 これは、今までに地域の声として寄せられた各種ご意見の中から治水・利水・環境・人間形成・文化・親自然の6つのキーワード(※)を基に「鳥海ダム水源地整備はこうありたい」というものを取りまとめたものです。

一、水を治め水を活かし人々の安全で
  豊かなくらしを支える

一、森青く水清らかな自然と人が
  共存する山紫水明の地

一、地域の文化と人々の健康で豊かな心を
  育む鳥海山麓番樂の郷

市内在住の書家・後藤竹清氏の揮毫により所長室に掲げてあります。

6つのキーワード

治水(ちすい)
「川づくり」「ダムづくり」の最も基本となるのが、人間社会を自然災害から守ることであり、社会基盤整備の一環として洪水から生命・財産を守ることである。
利水(りすい)
雨が少ないときでも安定した取水ができるようダムにより水量を調節し、かんがい、水道用水などが確保され豊かな社会生活が営まれるよう、有効利用しなければならない。
環境
人間社会と自然界が共存・共栄するため、環境の保全・創造は重要なテーマである。当本荘・由利地方は、鳥海山から日本海に至るまで自然環境に恵まれており、河川やダム貯水池の生態系、景観、水質、水量の保全等に取り組む必要がある。そのことが、人間形成、文化、親自然等にかかわりを持つこととなる。
文化
それぞれの土地には固有の文化が存在するが、当地方にも重要な歴史遺産や民俗芸能が受け継がれている。この様な財産を保護・伝承していくことが地域社会の使命であり、地域づくりの一要素を担うものである。また、ダムが新たな環境を生み、そこから文化が育つことも期待される。
人間形成
昔は川と人が深い関わりを持っていたが、近年川と人が遠ざかってしまった。しかし「もの」から「こころ」重視の時代へと移り変わる中、今後は人と川の関係を見つめ直し、お互いかかわり合っていく必要がある。そして、そこから健康・学習・心といった人間形成のテーマを導き出し、幅広い視野での考えを取り入れていかなければならない。
親自然
コンクリートで固められた護岸、「川に近づくな」の看板に見られるように、これまでは人と川がふれ合うことが少なくなっていた。本来の川の姿を取り戻すとともに、新たにつくられるダム湖が人々の憩いの場や観光の拠点として期待される。

どんなダムなの?

鳥海ダムは、鳥海山の麓の子吉川上流に、集水面積83.9km2、総貯水容量(ダムに貯められる最大の水量)約4,680万m3(25mプール約18万7千杯分)の計画で進めています。

ダム型式は、ダムサイトの地形・地質や建設コスト、環境への負荷の軽減などを考慮して、高さ約81mの「台形CSGダム」(※)としています。

この計画では、ダム地点の計画高水流量(洪水の最大流量)780m3/秒のうち700m3/秒を調節して、子吉川沿川の洪水被害の軽減をはかるほか、渇水時に正常な流量を流したり、由利本荘市への水道用水の供給を行ったり、塩水塑上による取水障害の低減、水質の改善並びに動植物の生息生育環境など河川環境の保全を図ります。

※台形CSGダム
CSGは、「Cemented Sand and Gravel」の略で直訳すると「砂と礫をセメントで固めたもの」のことであり、堤体の横断面の形状を安定性の高い台形にしていることから「台形CSGダム」と呼ぶ日本で開発された新しい型式のダムです。鳥海ダムでは、堤体の材料に基礎掘削材を使用する計画であるため、近隣の山を切り崩して新たに材料を採取する必要が無く環境負荷の低減が図られます。
台形CSGダムの基本的な横断面形状

画像:台形CSGダムの基本的な横断面形状

ダムの大きさ

貯水池容量配分図

貯水池容量配分図
平常時最高貯水位
ダムの目的の一つである利水目的(流水の正常な機能の維持、水道用水)に使用するために、貯水池に貯めることが出来る最高水位。
最低水位
貯水池の運用計画上の最低の水位。鳥海ダムの場合は、ダムに100年分の土砂が堆砂した時の標高(堆砂位)と一致している。
EL
海面(東京湾)からの高さ(標高)

ダムの役目(目的)は?

鳥海ダムは、地域の人たちが安全に安心して暮らせるようにするために計画されています。鳥海ダムのはたらきは大きく分けて4つあります。

1.洪水被害を軽減

子吉川は、古来よりたびたび洪水を引き起こし、沿川地域に大きな被害をもたらしました。その原因は川の長さが短いのに対して高低差が大きく、河床勾配が急なため、降った雨が一気に流れ出ることにあります。
鳥海ダムは、ダム地点における計画高水流量780㎥/秒のうち700㎥/秒を調節し、洪水のピーク時におけるダムからの放流量を80㎥/秒とすることで、堤防の整備や河道掘削などの河川改修とあわせて子吉川沿川の洪水被害の低減を図ります。

平成23年6月子吉川、石沢川の破堤及び氾濫状況

平成23年6月子吉川、石沢川の破堤及び氾濫状況

平成23年6月内水により冠水した由利本荘市岩渕下

平成23年6月内水により冠水した由利本荘市岩渕下

洪水を少しずつ下流に流し、大部分はダムで貯めます

洪水を少しずつ下流に流し、大部分はダムで貯めます。

洪水を貯める最大量は2,100万m3

洪水を貯める最大量は2,100万m3

2.流水の正常な機能の維持

鳥海ダム下流域の既得用水(※1)の安定補給を行うほか、塩水塑上(※2)による取水障害の低減、水質の改善並びに動植物の生息生育環境など河川環境の保全を図ります。

※1 既得用水
河川法制定以前から利用していた河川水
※2 塩水塑上
潮位(河口水位)が高くなることにより、海の水が川を塑る現象のこと
由利本荘市宮内地点

上記グラフは、由利本荘市宮内地点(利水基準点)における子吉川の流量グラフです。
赤線は、子吉川で「流水の正常な機能」を保つことができる最小限の水量で、宮内地点で毎秒11m3が必要であることを示しています。専門用語ではこの水量のことを「正常流量」といいます。

青色は実際に流れていた流量です。赤の線より青の棒グラフが短いところは、子吉川の水量が少なく「流水の正常な機能」が保てなかったことを示しています。鳥海ダムの役割は、黄色のところの水を補給するものです。このことにより、10年に1回程度の渇水時にも必要な水量を確保することができ、これまでより河川の環境をより良くすることができます。

長瀬橋上流の流況改善イメージ
鳥海ダムが完成することにより流況が改善される。渇水時(長瀬橋上流)
由利本荘市宮内地点

3.水道用水の供給

由利本荘市では、核家族化の進展や生活様式の変化とともに水道用水の需要の増加が予想されています。現在の水源はため池のほか、子吉川及び支川の表流水や湧水等に頼っていますが、度重なる渇水のため、新たな水源の確保が強く望まれています。鳥海ダムは、由利本荘市に対して新たに20,670m3/日(0.239m3/秒)の水道用水の取水を可能にします。

水道用水の供給

渇水で水位が低下した、由利本荘市の主要水源である黒森川貯水池(平成27年9月4日/子吉ため池)

4.発電

鳥海ダムの放流水を活用して、最大出力990kW、年間発電量約7,000MWhの発電を行います。

発電

子吉川と鳥海ダム

子吉川と流域

子吉川と流域

子吉川は、秋田・山形県境にそびえる鳥海山(標高2,236m)に源を発し、笹子川、鮎川等の支川を合わせて本荘平野を貫流し、本荘地域で石沢川、芋川を合わせて日本海に注ぐ一級河川です。

その流域は、人口約7万4千人(R3年5月:由利本荘市HPより)を有する由利本荘市と一部にかほ市、羽後町にまたがり、流域面積は1,190km2、幹線流路延長は61kmで、秋田県中南部の由利本荘地域の社会、経済、文化の基盤を成しており、古くから県内有数の穀倉地帯を形成する地域となっています。

流域の上流部には標高900m~1,000m程度の山々が連なり、他の大部分は400m以下と比較的低いものの、山地が約80%を占めています。

子吉川の特長

子吉川は鳥海山に源を発することから、流路延長の割には高低差が大きく、洪水のたびに幾度となく流路を変えていたことが地形的にも現れています。現在耕地となっているほとんどの場所に旧河道が見られます。また、河岸段丘の発達が著しく、河川の浸食作用の歴史が顕著に現れていて、上流から下流にかけていたるところで河川の蛇行が見られます。

子吉川の治水事業の歴史

子吉川の治水事業は、昭和4年に旧河川法による施行河川の認定をうけ、昭和8年から15年にかけて秋田県が由利橋から明法の間と支川石沢川の築堤、河道掘削を行ったのが本格的な治水対策の始まりでした。

その後、昭和22年7月、昭和30年6月、昭和44年7月などの洪水を契機に、昭和46年4月に直轄事業として改修事業に着手しました。しかし、昭和47年7月に計画高水流量(※1)を上回る洪水が発生し、破堤6カ所を含む大災害を受け、さらに昭和50年8月、昭和56年8月、昭和59年9月と相次ぐ洪水や流域の社会的、経済的発展を踏まえて、昭和62年8月31日に子吉川水系工事実施基本計画(※2)の改訂がなされ、二十六木橋基準地点(※3)での基本高水流量(※4)3,100m3/秒を上流ダム群で800m3/秒を調節することにより、計画高水流量を2,300m3/秒としました。

近年においても、昭和62年8月、平成2年6月、平成9年7月と相次いで洪水が発生し、平成10年8月には芋川を中心とする洪水が発生し、芋川合流点から下流の本川では河川災害復旧等関連緊急事業により築堤、河道掘削を実施するなどの治水対策を実施しました。

その後、平成9年の河川法の改正を受けて、平成16年10月29日には子吉川水系河川整備基本方針(※5)が策定され、子吉川の計画高水流量や河川工事、河川の維持についての基本となるべき方針が決定されました。

その基本方針のなかでは、二十六木橋基準地点での基本高水流量を3,100m3/秒とし、このうち流域内の洪水調節施設により800m3/秒を調節することにより、計画高水流量を2,300m3/秒としています。

さらに、平成18年3月には、子吉川水系河川整備計画(大臣管理区間)が策定されました。 鳥海ダムは、子吉川水系河川整備基本方針及び子吉川水系河川整備計画(大臣管理区間)(※6)に基づいて、建設されるものです。

※1 計画高水流量
河道を設計する場合に基本となる流量で、基本高水流量を河道とダム等の洪水調節施設に合理的に配分した結果として求められる河道分の流量のこと
※2 工事実施基本計画
河川管理者がその管理する河川について定めた基本高水流量や、ダム等の洪水調節施設への配分、計画高水流量に基づく堤防の計画標準断面等の河川工事の実施についての基本となる事項を定めたもの
※3 基準地点
治水計画を策定するための基準となる地点のこと
※4 基本高水流量
河川の計画を立案する際の基本となる流量で、ダム等の洪水調節施設が無い状態で流域に降った計画規模の降雨がそのまま河川に流れ出た場合の流量のこと
※5 河川整備基本方針
河川管理者がその管理する河川について、計画高水流量、その他該当河川の河川工事及び河川維持についての基本となるべき方針に関する事項を定めた法定計画
※6 河川整備計画
河川整備基本方針に沿って、当面実施する河川工事の目的、種類、施行場所等の具体的事項を示す法定計画を定めた法定計画

子吉川の由来

「子吉川」の名称の由来について一説には、今からおよそ650年前の、南北朝時代正平13年、「由利郡小石郷乙友村」が出羽国一宮神社である大物忌神社に寄進されたことから、この「小石」が子吉川の由来といわれています。
また他にも、およそ600年前の後小松天皇の応永6年、子吉修理之進がこの子吉郷を領地とし、子吉館に住んだことからこの地は子吉とよばれ、ここを流れる川を子吉川といったという説もあります。