「選奨土木遺産」は、土木学会において土木遺産の顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的として、平成12年に認定制度を設立しており、年間20件程度を選出しています。
平成28年3月末に鳴子♨地域づくりネットワーク(会長:髙橋鉄夫)から申請がなされ、このたび、東北管内のダムでは初となる認定となりました。
◇受賞理由
「複雑なカルデラ地形の地に外国の技術者を招かずに日本の技術者だけで建設した我が国初の本格的100m級アーチ式コンクリートダムである」
鳴子ダムの前に建設された上椎葉ダム(宮崎県・九州電力)は、設計および施工監理にアメリカ人技術者に協力を求め実施されているが、鳴子ダムは、設計および施工を日本人のみで実施。
それまでに建設されていた重力式ダムは、2次元解析であったが、アーチ式ダムは、3次元解析を含め、ダム毎に最適形状を試行錯誤で求めるもので、計算に多大な労力が必要であった。この作業を日本人がアメリカから取り寄せたマニュアルを訳しながら自力で実施した。なお、鳴子ダムの施工は鹿島建設であり、上椎葉ダムの建設も鹿島建設が手がけている。
コンクリート打設後、セメントの硬化熱による温度応力を抑え、ひび割れを防止する目的でパイプクーリングを実施。当時の欧米からの最新情報を応用して温度管理技術の先駆的役割を果たした。
洪水放流については、アーチ式ダム中心線と下流河道方向が偏心している。そこで、河道に流れを導くため、本体下流エプロン部にデフレクターを設け、減勢と流水方向を変向させた。11タイプもの模型実験を実施し、検討した。
鳴子ダムでは堤体に大きな孔を開けることは応力解析より不利となるため、トンネル洪水吐きで流下させる計画とした。なお、流水は平面曲線による遠心力のため外側に押されて天井を這い、斜坑部水平坑部においては撹乱される。そのため、トンネル上部にデフレクターを設けて流水の整正を図っている。
鳴子ダムサイトの地質は、基盤となっているのは新鮮な花崗閃緑岩でとても堅いが、花崗閃緑岩、石英粗面岩の風化帯の分布や、変形試験の結果、弾性係数が10,000kg/㎠~20,000kg/㎠と一律ではないなどの地質的特徴があった。また、左右岸上部の岩盤は風化が進んでいる花崗岩があることから、検討の結果アーチの推力を内部の岩盤に位置させ、あわせて遮水壁の役を持たせるため二股基礎工事を採用した。
さらに、弱部(破砕層、粘土部)の掘削除去やコンクリートへの置換、岩盤自体へセメントを注入(グラウト注入)するなど、岩盤補強の特殊処理を行っている。
このように、国内初めての設計・施工ではあったが、地質調査の結果に合わせて、柔軟な発想と工法の採用を図るなど、創意工夫が見られる。