第6回コンパクトシティ研究会 事例紹介1

青森市が進めるコンパクトシティについて
青森市都市整備部 脇坂 隆一 部長

 ご紹介いただきました、青森市都市整備部長の脇坂です。

 最近のまちづくり三法の改正などにより、青森市のコンパクトシティがクローズアップされている状況にあります。本日は、実際どのような取り組みをしているのか、そして現状はどうなっているのかということについてお話したいと思います。いろいろな場で青森のコンパクトシティについて紹介されていますので、基本的な部分は少し省略し、最近の話題を2点、一つは中心市街地活性化基本計画について、もう一つは、青森市の特別用途地区条例の制定についてご説明させていただき、皆様と議論できればと思っております。

■青森市の概要
 まず、青森市の概要を説明いたします。人口が約32万人で、青森県全体が140万人ぐらいですので、東北の県庁所在地の中では、県都ではありますが圧倒的な存在という訳ではありません。中核市の要件を浪岡町との合併で満たし、昨年10月に中核市に移行しました。面積が約824kuで、北は陸奥湾に面しており、また後ろに八甲田連峰が控えているというような地勢の都市です。産業としては、あまり工場等がないところで、どちらかというと3次産業が多く、県庁があることに伴って県の中枢というような形の商業、流通業、または行政都市という色が強くなっています。ただ浪岡町と合併したことから、リンゴの生産量が一躍全国で第二位になったところです。気象条件は世界有数の豪雪都市で、昨年は1メートル50センチ、一昨年でも1メートル80センチ、例年それぐらいの積雪がある大変な豪雪都市です。青森市が東北の他の県庁所在地と比べて大きく違うところが一点あります。何かというと、お城がないということです。一般的には各藩が置かれていたところに県庁が置かれ町が建設されるというパターンが多いですが、青森市は例外的に弘前にあった県庁が港町であった青森に移ってきたことで発展しました。この歴史についても後ほどのコンパクトシティのまちづくりの中でベースとなっている話です。

■青森都市計画マスタープラン
 今回の会議のテーマでもある「コンパクトシティの形成」という言葉ですが、これを青森市では「青森市都市計画マスタープラン」で位置づけており、時期としては平成11年6月と、かなり早い時期から位置づけています。この主な狙いは3つあります。1つは市街地の拡大に伴う新たな行財政需要の抑制です。近年、地方公共団体の財政状況が急激に悪化しており、また人口減少社会の中、これまでのような行政サービスが維持できないことでコンパクトシティが注目されている訳ですが、平成11年の時点では必ずしもそういうような状況ではなかったと認識しています。それではなぜ青森でこういったことが言えたかといいますと、後追いで町をつくっていって膨大にコストがかかっていた下水道というのが1つあります。青森市は、平成元年頃までは街路や下水道の整備が大変遅れていましたが、その後、急速に整備率を伸ばしてきて、ようやく現時点で全国平均並の下水道普及率になった訳ですが、後追いですから膨大なコストがかかりました。またもう1つのコストは、雪です。今日はあまり雪に関する資料を持ってきませんでしたが、除排雪費用というのが大変痛いお金です。青森市では当初予算で大体19億円を除排雪費としてみております。これは下手をすると県レベルの除排雪費用とほぼ同程度のお金です。これの何がつらいかと言うと、一つは一般財源で賄わなければならないということです。雪というのは一年で消えてしまい後に何も残らないため起債が使えません。それにもう一つは、県道や国道の除雪については道路特定財源から補助金が出る仕組みになっていますが、市町村道の維持管理費は特定財源ではなく交付税という形で整理されており、除排雪の費用もその一部ということになっています。当然、交付税及び特別交付税の算定の際に豪雪というのは考慮されていますが、一般財源で毎年18億、19億円を計上することは大変厳しいです。今年のように雪が降らなければいいのかというと決してそういう訳ではなく、人も機械も揃えておく必要があるため固定費用がかかります。当然契約の中でそういったお金も払っていかなくてはいけません。出動した分だけを支払うような契約であれば雪の降らない年は楽ですが、降る年は際限がなくなってしまい財政を圧迫することになってしまいます。そのため、これ以上市街地を広げて除雪コストを増やすわけにはいかないという考えが基本としてあり、かなり以前から「コンパクトシティの形成」に向けた取り組みが説得力を持ったものと考えております。

 また既存のストックを有効活用した効率的で効果的な都市整備ですが、青森は青函連絡船で発展し、戦災復興で碁盤の町ができ、それが都市基盤ストックであり、それを有効活用していくということです。

 また、八甲田山の頂までが青森市ですが、国立公園や国有林などで守られており、そこから街までの間に田園地帯があります。こういったところと街との調和を図っていくということが基本です。

■都市構造の基本的考え方
 これを絵にしたのがこの図面です。コンパクトシティという概念を即地的に表したもので、街をインナー、ミッド、アウターの三つに区分しています。この赤いところがインナーで、中心市街地及びその周辺に広がった既成市街地です。ここはもともと人が住んでいたエリアで、中心市街地活性化を図り、密集市街地については再構築を図っていくエリアです。この密集市街地は、戦後青森市の人口が急速に増加した時に、いわゆるスプロール開発がおこなわれたところです。当時は都市計画法も旧法でしたので開発許可制度もなく、田んぼにどんどん家が建ったところで、東北では仙台の一部と青森の一部だけが、国から危ないと指定されている密集市街地を抱えています。そういう意味では、インナーイコール中心市街地ではなくて、中心市街地を囲む密集市街地エリアを含むというような形になります。ただ一部のところでは区画整理でそれなりの基盤ができていますが、大変悪いところもあるというのがインナーです。これが約2,000haです。

 アウターという郊外部ですが、点線の外側です。ほとんどが市街化調整区域で、ここから外側については開発を抑制していくところです。ただ一部例外的に線で囲っている場所ですが、これは昭和30年代ぐらいから県が住宅公社などで開発してきた郊外型の団地です。またこの辺に卸団地や中核工業団地などがあります。そういうところを除いた、集落などがあるエリアについて、基本的には開発を行わないエリアとして位置づけています。

 その中間部分にミッドエリア3,000haがあります。今後開発をしていく際にはこのエリア内で行うこととしていますが、その際、線引き編入するだけではなく、区画整理と都市計画をセットで進めていきます。特に区画整理で行うというのは、広幅員の街路を確保して除雪を楽にするという狙いがあります。現在、大野地区と新幹線関連の浜田地区で区画整理を行っています。

 平成11年以降、このような形でまちづくりを進めてきております。今の状況としては、人は当然増えていないので、現在行われている区画整理後の開発についてはミッドであろうと行わないと考えています。

■中心市街地の再活性化
 続いては中心市街地です。これは旧中心市街地活性化基本計画のエリアですが、新しい計画でもほぼこのエリアを踏襲しており、目標も踏襲しています。先程説明したように、港町として扇型に発展してきているので、その扇の中心部ということです。青函連絡船で青森の底部を支えてきた青森駅、県都としての県庁、さらにはオフィス街と中心市街地である新町、この一帯が青森の中心市街地で、大体100haぐらいです。近年は港湾事業などで、大型客船バースなども整備され、ウォーターフロントの整備も大分進んでいます。

 戦災復興以来、相当な投資がこれまで行われてきたところなので、ここが活性化しないと市全体が活性化しないというのが青森市の考えです。そのため、扇形の町の要として中心市街地を捉えており、中心市街地活性化基本計画については、旧法時代においても平成10年という大変早い時期に策定しています。その目標は「街の楽しみづくり」、つまり魅力の向上です。そして「交流街づくり」、これは観光振興です。「街ぐらし」、これはまちなか居住です。それを全部合わせて「ウォーカブルタウンの創造」、つまり「歩いて暮らせる街づくり」というのを目標に、これまで整備を進めてきたところです。

■アウガ・パサージュによる活性化
皆さんも当然ご存知かもしれませんが、街なかのこれまでの投資で一番有名な事例として駅前の再開発ビル「アウガ」があります。これはもともと駅前の漁菜市場みたいなところで、昭和50年頃から再開発の話がありましたが、西武百貨店が撤退してしまったので、市が面倒を見ることになってしまいました。具体的には、駐車場を市営駐車場にし、さらに保留床の買い上げも行い、多目的ホールや男女共同参画プラザを入れ、その上、郊外にあった図書館を全部こちらに移転させ、平成13年にオープンした訳です。その結果、テナントは20代をターゲットとした店舗などの入れ替えなどがどんどん進んでおりますし、図書館ももともと集客性のある施設ですので、一日平均で大体1万6千人ぐらいの市民が訪れています。年間では600万人になり、中心市街地での一つの大きな集客拠点となっています。当然、お金も相当かかり、総事業費180億円の相当部分を市で負担しています。その一方で市民も多く利用しており、中心市街地活性化の成功例とよく言われています。最近コンパクトシティで注目されるようになり、東京のマスコミが取材に訪れます。そしてアウガを見て、「図書館が利用されていて素晴らしい」、そして「テナントは東京の20代向けのテナントが結構入っていて、これはなかなかいい」、そして下のもともとの権利者の方々の市場に行くと魚を売っていたりする訳ですが、そうすると「素晴らしいコンテンツだ」とか言ったりします。特にそういうコンテンツを選んだ訳ではなくて、従前の権利者が普通に商売しているだけですが、外から見ると大変魅力的に見えるようで、実際アウガ周辺では賑わいを見せています。

また、パサージュ広場という活動もやっています。これは空き店舗を市で買い取り、壊して広場にし、その周りに仮設店舗をつくり、商業をやりたい人に安い条件で貸しています。衣・食が5年、物販が1年という形で、大変安く貸しており、ここで商売のイロハを覚えてもらうというようなことです。これが商業のインキュベーターのような機能も果たしています。

■冬期バリアフリー計画
 続いて、冬期バリアフリー計画ということもやっています。これは国土交通省の青森河川国道事務所や青森県と一緒にやっており、中心市街地内の主要な道路の融雪を行っていこうということです。アーケードなどがあるところはよしとして、それ以外のところで地熱や海水熱、電熱などを使って融雪を行っていこうということで、平成17年までで8,650メートル整備しています。計画区域内の国道はほぼ終わっており、県道も今年度で終わります。ただ、市道だけが、財源の問題もありあまり進んでいませんが、着々と中心市街地のグレードが上がっています。

■まちなか居住の推進
特にこのような融雪歩道が中心市街地の価値を高めています。マンションを売る際の一つの常套句のようになっており、雪に悩まされない暮らしというようなことが相当魅力になっています。近年はどこの地方都市でもマンション供給が盛んですが、青森も相当供給が進められています。これまでの取り組みに加え、マンション業者も相当ノウハウを蓄積していますので、マンションを建てても結構売れています。平成19年までに約914戸のマンションがこのエリアで供給されています。最近では郊外にもマンションが建設され始めています。

 その中で行政が関与したまちなか居住の建物が二つあり、一つは借り上げ公営住宅です。これもかなり強引な施策ですが、郊外の老朽化した公営住宅を廃止して、中心市街地に借り上げで公営住宅を確保するというものです。借り上げの方法としては、中心市街地に土地を所有している方にコンペを行い、一番いい条件を出してくれた方と契約し、市が20年間借り上げるというものです。結果的に強制移住のような形になりますが、建物のグレード、生活のグレードが上がるので、一部の方を除いて移住が済んでおり、結果としては快適だというような声になっています。当然、住居部分を借り上げるだけので、1階部分は、コンビニとレストランが入っており、大変暮らしやすい公営住宅ができています。

 またもう一つは駅前のアウガの隣にミッドライフタワーというものを昨年の1月にオープンしました。これは、ホテルが撤退した跡地に高齢者対応型マンションを建設したものです。1階に従前居住者の店舗、2階にクリニック、3階と4階にケアハウスが入って、5階から上が高齢者対応型マンションです。比較的床単価が高く、さらには駐車場も付いてない地方都市では考えられないマンションですが、現時点で1戸を残して完売しているような状況です。特にエレベーターで下りればそのまま病院に行ける利便性については大変ニーズが高いようです。

 

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