6 設置許可における技術的審査の考え方について

   工作物の新築等の許可を行うにあたっての技術的審査は、河川管理施設等構造令、工作物設置許可基準、河川砂防技術基準(案)によるが、ここでは、特に光ファイバーの設置にかかる基準を示した「工作物設置許可基準」について、その考え方を解説する。
   光ファイバーケーブル類とは、光ファイバーケーブル、通信ケーブル等をいう。
   「収容管路」 とは光ファイバーケーブルを敷設するための管路をいい、「ハンドホール」とは引き通しハンドホール又は接続ハンドホールをいう。

(適用範囲)
第1 この規定は、光ファイバーケーブル類について適用するものとする。

(設置の基準)
第2
 一 共通事項
  @ 設置にあたっては、計画横断形に適合した位置を選定することを基本とするものとすること。ただし、近い将来改修工事に着手する予定のない区間にあってはこの限りでない。
  A 光ファイバーケーブル類及び収容管路は、損傷等に対して十分安全な深さに埋設することを基本とするものとすること。ただし、鞘管構造やコンクリート巻立構造とするなど、必要な対策を講ずるときはこの限りでない。
  B ハンドホール及び伝送装置等については、堤外地及び堤防の表法に設置しないことを基本とするものとすること。ただし、高水敷においては洗堀等の生じるおそれが極めて低い場合はこの限りでない。
 二 河川の縦断方向に設置するときの設置の基準
  @ 計画堤防内、堤外地及び堤防の表法には設置しないことを基本とするものとすること。
  A 堤内地において設置するときは、「堤内地の堤脚付近に設置する工作物の設置等について」(平成6年5月31日 建設省河治発第40号【別紙−1】)によるものとすること。
 三 堤防を乗り越して設置するときの設置の基準
  @ 設置の方向は、堤防法線に対して直角を基本とするものとすること。
  A 堤防の表法部分においては、光ファイバーケーブル類及び収容管路はコンクリート巻立構造(護岸との一体構造を含む。)とし、その上面を堤防法面に合わせることを基本とするものとすること。なお、護岸との一体構造としない場合においては、護岸等の堤防補強を行うものとすること。
  B 堤防の天端及び裏法肩から堤内地側の部分については、計画堤防内に設置しないことを基本とするものとすること。
  C 構造令に適合していない既存の橋にやむを得ず添架するときは、治水上の支障について検討を行い、必要な対策を講ずるものとすること。
 四 高水敷に設置するときの設置の基準
  @ 設置の方向は、洪水時の流水の方向に対して直角を基本とするものとすること。
  A 埋設の深さは、「河川管理施設等構造令」第62条第2項(【別紙−2】)によるものとすること。ただし、治水上の支障の生じないよう必要な対策を講ずるときはこの限りでない。

(設置に係るその他の留意事項)
第3
 @ 光ファイバーケーブル類の設置にあたっては、他の一般公衆の自由かつ安全な河川使用の妨げとならないよう必要な対策を講ずるものとすること。

※ 上記の設置許可基準は、「工作物設置許可基準について」(平成10年6月19日付け 治水課長通達)の第17条の2から第17条の4を引用したものです。

【解説】

第2 一 @について
  近い将来改修工事に着手する予定のある区間に光ファイバーケーブル類を設置するときは、極力、改修工事の施工時期と光ファイバーケーブル類の設置時期との調整を図るものとする。
  なお、近い将来改修工事に着手する予定のない河川にあっても、災害の発生等の状況の変化があった場合には、これを契機として河川改修工事が実施されるのが通例である。このため、計画横断形に適合しない位置に光ファイバーケーブル類を設置するのは、将来の改修時に占用者の負担において当該改修工事の支障とならない措置を講ずべき旨の条件を付し得る場合に限るものとする。
  なお、用途を廃したときは、治水上の支障とならないように、占用者若しくは設置者が全ての施設を除却し原形復旧することを基本とするものとすること。


第2 一 Aについて
   光ファイバーケーブル類及び収容管路を地表付近に設置すると、車両通行等により人為的に損傷等を加えられる可能性がある。このため、これらに対して物理的に十分安全な深さに埋設することを基本としたものである。なお、埋設することは、河川環境面や他の一般公衆の自由な河川使用の面からも好ましい。この埋設深さは、堤防天端や堤防の裏小段、裏法尻においては、地表面から0.3mとしている事例が多い。なお、高水敷における埋設深さについては本条 四Aに規定している。
   また、特殊堤、他の工作物の近接箇所等において、十分な埋設深さが確認できないときは、光ファイバーケーブル類及び収容管路を保護するため、鞘管構造やコンクリート巻立構造とする等の対策が必要である。

【埋設例】

※この場合、左右岸の堤防高のバランスを考慮すること。


【図−5】

第2 一 Bについて
   ハンドホール及び伝送装置等は、設置間隔を長くとれるので、高水敷、低水路及び堤防の表法面に設置する必然性は乏しい。また、洪水時に、洗堀等により、これらが河道内に流出すると、治水上の支障となる。このため、高水敷、低水路及び堤防の表法面には設置しないことを基本としたものである。ただし、高水敷であっても、地形が安定している区間や流速が低い区間で洗堀等の生じるおそれが極めて低い場合はこの限りでない。

第2 二 @について
   光ファイバーケーブル類は断面が小さく、設置上の自由度が高く、計画堤防内、堤外地及び堤防の表法に縦断的に設置する必然性は乏しい。このようなことから、計画堤防内、堤外地及び表法には縦断的に設置しないことを基本としたものである。(【図−1〜4】を参照)

第2 三 @について
   堤防を横断する延長を最小にするため、堤防に対し直角に設置することを基本としたものである。


【図−6】

第2 三 Aについて
   光ファイバーケーブル類及び収容管路は断面が小さいので、流水の乱れが生じないようにすることを第一に考えて、コンクリート巻立構造(護岸との一体構造を含む。)とし、これらの上面を堤防法面に合わせることを基本としたものである。
   堤防の法面が芝である場合においては、流水の乱れなどによる洗堀が起きないように、護岸等の堤防補強を行う必要がある。堤防補強の範囲は、光ファイバーケーブル類及び収容管路の両端から1m以上とするが、2mとしている事例が多い。

第2 三 Bについて
   堤防を横断する場合の構造は下図を基本とする。なお、天端部分は、河川管理用車両の通行に支障のない構造とする必要がある。

【堤防天端又は表法に埋設する場合】

第2 三 Cについて
   光ファイバーケーブル類及び収容管路等を橋梁(高架橋も含む)に添架する場合は、橋梁管理者に確認のうえ河川法の申請を行うものとする。
   ただし、構造令に適合していない既存の橋は、治水上何らかの問題点を有している。このため、やむを得ず構造令に適合していない既存の橋に添架する場合は、治水上の支障について検討を行い、必要があるときは、添架位置に配慮する等の対策を講ずるものとしたものである。

第2 四 @について
   ここでは、堤防等に設置した光ファイバーケーブル類からの分岐ケーブルを高水敷及び低水路に設置する場合を想定している。(【図−6】を参照)

第2 四 Aについて
   光ファイバーケーブル類及び収容管路を構造令第62条第2項(【別紙−2】及び下記図−7)によらず高水敷等の地表付近に設置した場合、流水の乱れ等により洗堀が起きる可能性がある。このため、設置深さは、構造令の規定によるものとしたものである。ただし、高水敷保護工を設置する、樋管の水路等の他の構造物と一体化するなど、治水上の支障が生じないよう適切な対策を講ずるときにはこの限りではない。なお、高水敷保護工の範囲は、光ファイバーケーブル類及び収容管路の両端から1mとするが、2mとしている事例が多い。

【図−7】               【図−8】

※1 堤防下及び堤防に近接した箇所の地下に工作物を設置すると、その他の箇所と地盤内の応力分布や地震時の挙動が異なるため、堤防に亀裂等が生じるおそれがある。また、工作物の設置に伴う掘削等により堤防の荷重バランスが崩れ、堤防の安定を損なうおそれがある。さらに、地下の工作物の場合、事故や災害により堤防や地表面に思わぬ悪影響が生じる場合も考えられるため、堤防下及び堤防に近接した箇所(堤防表法尻から10mまで)は設置が不適当な箇所とした。

※2 低水路河岸付近は、掃流カが大きく、また低水路と高水敷の段差のため流水の作用も複雑になっており、異常洗堀を受けやすいことを考慮状況となっているため、極力設置しないものとしている。
  しかし、高水敷の自然保護や利用形態への影響、さらに高水敷が狭かったりして、やむを得ず低水路河岸付近に設置しなければならない場合は、構造令第62条第2項により低水路から2m以上の部分に埋設(図−7)するか、若しくは「その他の高水敷」と同様に高水敷から1m以上とし、河道の状況等を考慮した上で、必要に応じて低水護岸及び高水敷保護等の対策を講ずる等異常洗堀に対する対策(図−8)を実施する必要がある。

【図−8】

第3 @について
   光ファイバーケーブル類を設置する際には、他の一般公衆の自由かつ安全な河川使用の妨げとならないよう段差を新たに設けないことが望ましい。なお、堤内地からのアクセスが妨げられるおそれがあるときは、適当な間隔で通路を設ける等の対策を講ずる必要がある。

【別紙−1】
●堤内地の堤脚付近に設置する工作物の位置等について…(平成6年5月31日 治水課長通達)
 堤内地において、堤防の堤脚に近接して工作物を設置する場合については、水路等の設置に伴う掘削により堤防の荷重バランスが崩れること若しくは基盤漏水が懸念される箇所においてパイピングが助長されること又は止水性のあるRC構造物等の設置により洪水時の堤防の浸潤面の上昇が助長されること等の堤防の安定を損なうおそれがあることから、従来より、工作物の設置による堤防に与える影響について検討し、その設置の可否を決定してきているところであるが、この度、堤内地の堤脚付近に設置する工作物の位置等に係る判断基準等をまとめたので、今後は、下記により取り扱われたい。
                                  記
(1) 堤脚から50%の勾配(2割勾配)の線より堤内側及び堤脚から20m(深さ10m以内の工作物の場合については10m)を超える範囲(次図の黄色の斜線外の堤内地側の部分)における工作物の設置(堤防の基礎地盤が安定している箇所に限る。)については、特に支障を生じないものであること。
(2) 堀込河道(河道の一定区間を平均して、堤内地盤高が計画高水位以上)のうち堤防高が0.6m未満である箇所については、次図の斜線部分に該当する部分はなく、特に支障を生じないものである。
(3) 基礎杭工等(連続地中壁等長い延長にわたって連続して設置する工作物を除く。)については、壁体として連続していないことから、堤防の浸潤面の上昇に対する影響はなく、次図の斜線部分に設置する場合においても、特に支障を生じないものであること。
(4) 次図の斜線部分にやむを得ず工作物を設置する場合については、浸透流計算により求めた洪水時の堤防内の浸潤面に基づく堤防のすべり安定計算により、堤防の安定性について工作物設置前と比較し、従前の安定性を確保するために必要に応じて堤脚付近に土砂の吸い出しを生じない堤防の水抜き施設の設置等の対策を講ずるものとすること。なお、旧河道や漏水の実績のある箇所においては、堤防の川表側に十分な止水対策を行う等の対策を併せて講ずる必要があると考えられるものであること。
(5)基礎地盤が軟弱な箇所における次図の斜線外の堤内地側の部分に工作物を設置する場合については、荷重のバランスの崩れ、浸潤面の上昇等により堤防の安定性を損なうおそれがあるため、(4)に準じて堤防の安定性について確認し、必要に応じて所要の対策を講ずるものとすること。なお、事前に十分な検討を行い堤防への影響の範囲を明確にしておく(次図と同様の図を作成)ことが望ましいものであること。
(6) 堤防の基礎地盤がシラスや泥炭地帯等の基礎漏水を生じやすい地質である場合については、すべりに対する堤防の安定性のほか、基盤漏水に対する堤防の安全性についても確認し、必要に応じて所要の対策を講ずるものとすること。
(7) 排水機場の吐出水槽等の振動が堤防に伝わるおそれのある工作物を設置する場合においては、堤防の法尻より5m以上離すものとすること。
(8)その他堤防の安全性を損なうおそれがある場合で上記の判断基準によりがたいものについては、個別に十分な検討を行い、所要の措置を講ずるものとすること。

【別紙−2】
●河川管理施設等構造令… (平成12年6月7日 政令)

(橋脚)
第62条 第2項
 河道内に設ける橋脚の基礎部は、低水路(計画横断形が定められている場合には、当該計画横断形に係る低水路を含む。以下この項において同じ。)及び低水路の河岸の法肩から20m以内の高水敷においては低水路の河床の表面から深さ2m以上の部分に、その他の高水敷においては高水敷(計画横断形が定められている場合には、当該計画横断形に係る高水敷を含む。以下この項において同じ。)の表面から深さ1m以上の部分に設けるものとする。ただし、河床の変動が極めて小さいと認められるとき、又は河川の状況その他の特別の事情によりやむを得ないと認められるときは、それぞれ低水路の河床の表面又は高水敷の表面より下の部分に設けることができる。

※第2項において、低水路の河岸の法肩から20m以内の高水敷部に設ける橋脚の根入れは、低水路の設ける橋脚と同じ扱いにしているが、これは、低水路の河岸の異常洗堀を考慮したものである。橋脚の位置に伴って低水路の河岸にも護岸を設けなければならないものであるが、低水路の河岸においては掃流力も大きく、また流水の作用も単純でないので、異常洗堀を受けやすい。横方向に30mないし50m程度の異常洗堀を生ずることもしばしばである。

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