(3)利水の現状と課題
1)水利用の現状と課題
@現況流況
 最上川流域の月山・朝日山系をはじめとする山々は、全国有数の多雪地帯となっている。このため、3月下旬から4月末にかけての融雪期は、各山系からの雪解け水が最上川を潤し、年間を通じ最も流量の豊富な期間となっている。
 4月末からは各地で農業用水の取水が行われるようになり、また盆地特有の乾燥傾向の気候も影響して、最上川の流量は次第に少なくなっていく。7月及び8月は集中的な降雨により一時的に流量が増えることもあるが全般的には少なく、年間を通じ最も流況が悪化する期間である。
 9月に入ると秋雨前線などの影響による降雨で流況は次第に回復し、降雪期となる11月下旬から翌年3月まで流況は安定し、この間に流域の各山系に蓄えられた雪は、春の訪れとともに再び最上川を潤す。
 最上川本川の主な地点における観測期間の流況は、表3に示すとおりである。
 最上川の流況は、豊水流量と渇水流量の差が大きいこと、また、上流部の渇水流量が下流部の渇水流量と比較して少ないことなどの特徴が挙げられる。

表3  最上川主要地点流況
観測所名 集水面積
(km2)
豊水流量
(m3/s)
平水流量
(m3/s)
低水流量
(m3/s)
渇水流量
(m3/s)
平均流量
(m3/s)
観測期間年
糠野目 359 13.7 8.9 5.8 2.7 13.1 S44〜H11
小 出 1,350 83.9 47.6 28.7 13.5 73.3 S26〜H11
中 郷 2,100 132.3 75.7 47.8 22.0 112.3 S31〜H11
稲 下 3,770 232.8 135.4 90.2 46.1 204.5 S27〜H11
高 屋 6,271 425.7 253.1 163.3 84.6 362.7 S33〜H11

豊水流量 1年の日平均流量を大きい順番で並べ、大きい順から95番目の流量
平水流量 1年の日平均流量を大きい順番で並べ、大きい順から185番目の流量
低水流量 1年の日平均流量を大きい順番で並べ、大きい順から275番目の流量
渇水流量 1年の日平均流量を大きい順番で並べ、大きい順から355番目の流量
平均流量 1年の日平均流量の総和を1年分の日数で除した値

図4 最上川主要地点図

A水利用
 最上川の利水の歴史は古く、最も古い施設としては、建久年間(1190年代)に設けられた寒河江川の「二の堰」といわれている。農業水利事業が活発に行われ、開田・開村が進んだのは江戸時代に入ってからである。
 最上川の利水は、本川が内陸交通路として利用されていたこと、低地を流れ豊水流量と渇水流量の差が大きく、河岸段丘も発達しているため自然取水が困難であったこと等から、支川からの取水が主であった。特筆すべきものとしては、明治44年に全国に先駆けて酒田市遊摺部(ゆするべ)地内にポンプ場が設置され、600haの開田が行われたことが挙げられる。以来、大正から昭和にかけて各所に揚水機場が設けられ、農業水利事業は目覚ましい発展を遂げ、現在そのかんがい面積は約124,100haに及んでいる。
 また、水道用水としては山形市をはじめ11市15町で利用されている他、発電用水にも利用されており、その最大出力は202,700kwに及んでいる。
 最上川水系における利水の現況は、表4に示すとおり、最上川全体で約563m3/s、そのうち発電用水が約352m3/s、かんがい用水が約202m3/sと水利用の多くを占めている。
 最上川流域において、流水の正常な機能の維持に必要な流量※1を確保するため、各支川等における水資源開発施設に対しては、貯留制限※2を実施する必要がある。
 さらに、河川環境の保全・復元、安定取水のためのダム等の水資源開発や合理的な視野に立った水利用のための関係機関との連絡調整、低水管理の確立、そして流域を単位とした水利用調整の充実が求められる。

表4 最上川水系利水現況
目 的 件  数 取水量(m3/s)
上 水 道 22 5.092
鉱工業用水 1.353
かんがい用水(許可) 333 201.865
発電用水 25 351.972
そ の 他 34 2.593
417 562.875
平成13年9月現在かんがい用水は許可水利権による。
B渇 水
 山形県では水利用の多くを最上川に依存している状況から、流域全土にわたり深刻な被害をもたらした昭和48年をはじめ、昭和30年、昭和53年、昭和59年、昭和60年、平成6年に渇水が発生している。このような渇水時には、農業用水使用者は番水※4による節水、反復利用の強化、地下水揚水補給等により対応し、都市部においては夏場のプール利用を停止したり、一時的な断水を実施するなどして対応している現状にある。
 最上川の主な渇水被害状況は、表5のとおりである。
 平成2年に完成した寒河江ダムにより、最上川の中・下流部(最上・庄内地域)の渇水は解消の傾向にあるが、依然、最上川上流部(置賜地域)においては近年の夏期の小雨化傾向等から毎年のように渇水状態となっている。
 また、渇水時には、利水のための取水施設の下流において河川流量が少なくなる区間があることから、流水の正常な機能の維持を図る必要がある。

表5 最上川渇水被害状況
渇水発生年 渇水被害の概要
昭和30年 県内各地で水田のひび割れ(稲の一部が枯死)
昭和48年 山形市高楯地区・松山町で断水開始。上郷ダム発電停止。
草薙頭首工取水能力34%にダウン。
山形市上水道、東北電力、四ヶ村堰土地改良区他が3割の節水。
昭和53年 天童市で約10haの水田ひび割れ。
酸欠で鯉・鮒大量死。三郷堰土地改良区岡文田への水口閉鎖。
各地で街路樹枯死、飲料水不足。村山市で給水能力ダウン。
昭和59年 草薙頭首工が本川河道内導流堤設置により取水。
昭和60年 最上峡船下り乗船員の制限及び河床掘削。
県内各地でポンプ揚水実施、62箇所に井戸新設。
取水施設は河道内導流堤設置により取水。
平成6年 南陽市で水田ひび割れ、稲立ち枯れ。


2)水需要の動向と課題
 山形県全体の年間水需要量は、山形県によると昭和55年から平成22年まで、約27億8,500万m3から27億7,800万m3のほぼ横ばいで推移するものと見込まれている※5
 地域別には、村山地域は生活用水が伸びるものの農業用水が減少し、水需要量全体としては減少すると見られており、置賜地域でも同様の見通しとなっている。一方、庄内地域および最上地域においては、生活用水の伸びとともに農業用水も微増すると見込まれており、水需要が増大する地域となっている。
 山形県は、地下水に恵まれてきたことから、水源を地下水に依存する割合が高く、生活用水や工業用水の地下水依存率は、全国平均を大きく上回り水需要総量の約1割に及んでいる。
 特に、消雪道路の多い置賜地区をはじめ、各地において消雪用水としての地下水利用が増加しており、地下水の汲み上げすぎは地盤沈下の主要因であるとみられている。

※1 許可水利 河川法第23条で流水の占用権を国土交通省令で認められたもの
※2 流水の正常な機能の
維持に必要な流量
舟運、漁業、景観・観光、塩害の防止、河口閉塞の防止、河川管理施設の保護、地下水位の維持、動植物の保護、流水の清潔の保持等を総合的に考慮し、渇水時において維持すべきであるとして定められた流量(維持流量)及びそれが定められた地点より下流における流水の占用のために必要な流量(水利流量)の双方を満足する流量。
※3 貯留制限 渇水時等の流量低下時において、ダムにより流水が全部貯留されて下流に放流されない事態を防止するため、必要な流量の下流への放流を義務づけること。
※4 番水 かんがい地区をいくつかの区域に分け、区域ごとに順次給水していく用水の配分方法。輪番かんがいともいう。
※5 「やまがた21世紀ウォータープラン」より