T.河川整備計画の目標に関する事項
1.流域の概要
(1)流域の自然と歴史・文化
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1)流域
最上川は、その源を山形・福島県境の西吾妻(にしあづま)山(標高2,035m)に発し、米沢・山形の各盆地を北上し、新庄付近で流向を西に変え、最上峡(もがみきょう)を経て広大な庄内平野を貫流し、酒田市において日本海に注ぐ、延長229km、流域面積7,040km2の一級河川である。
流域は、東に奥羽(おうう)山脈、西には出羽(でわ)丘陵・越後(えちご)山脈が連立し、南は飯豊(いいで)山系・吾妻山系、北は神室(かむろ)山系に囲まれ、それら山脈の間に成立する盆地群(米沢・山形・新庄)と各盆地間を結ぶ狭窄部※1きょうさくぶ(荒砥(あらと)・大淀(おおよど)・最上峡)からなる内陸の上中流部と、最上川の扇状地(せんじょうち)として出羽丘陵の西側に広がる庄内平野からなる下流部に分かれ、県土面積の約8割、全44市町村のうち12市23町3村を擁し、その人口は県人口の約8割を占める約100万人と山形県の社会・経済・文化の基盤をなしている。
さらに自然環境に優れており、山形県の「母なる川」として深く県民に親しまれている 。
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図1 最上川地形図
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2)気候
流域の気候は、はっきりとした四季の変化を有し、全体としては日本海岸式気候に属するが、地域差が大きいことが特徴である。海岸域(庄内地方)は暖流の影響により、温暖で降雪量も少ないが、年間を通じて風が強く、特に冬の北西の季節風が卓越している。内陸部は降水量が少なく気温較差が大きい盆地性気候が特徴である。
年間降水量は、最上川流域平均で約2,300mmで、山地の影響により地域的な偏りが大きく、月山(がっさん)、鳥海(ちょうかい)山、飯豊・吾妻山系は年間約2,500mm以上の多雨域となっており、村山盆地一帯は約1,500mm以下の小雨域となっている。
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図2 年間等降雨量線図
(1981〜1990年:単位mm)
(拡大図)
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3)自然環境
最上川は、内陸部に広がる水田地帯を悠々と流れ、豊かな自然環境と良好な河川景観を有している。
源流から米沢盆地に至る最上流部は、ブナをはじめとする原生林が残り、瀬(せ)や淵(ふち)を繰り返す流れにはイワナやカジカ等、清流に生息する魚種が多く、自然あふれる渓流域となっている。また、米沢、山形盆地付近は、川幅が広くなり砂洲※2さすを伴い流れが蛇行している。高水敷※3こうすいじきの多くは農耕地として利用され、それ以外は豊かな植生で覆われている。
中流部は、河岸段丘の底部を流れ川幅が狭くなっている。中でも、周辺の滝や河床の岩盤の露出とミズナラやカエデ、スギ等の植生が雄大な景観をつくりだしている最上峡は、松尾芭蕉(まつおばしょう)の句にも謳われるなど最上川を代表する渓谷を形成し、四季を通じ舟下りの観光地としても名高い。このほか、大淀狭窄部には舟運時代における引綱の跡が残る自然河岸や三難所(碁点、三ヶ瀬、隼)として名高い岩河床の急流区間が残されている。また、村山野川(東根市)には、河川敷地内の海老鶴沼周辺に良好な水辺空間が形成されている。
庄内平野を流れる下流部では、河床勾配(かしょうこうばい)も緩く川幅も広くなり、高水敷にはヨシやオギ等が密生し、水辺にはサギやチドリ等の夏鳥のほか冬鳥の飛来も多く、多くの鳥類の生息域となっている。特に両羽橋(りょううばし)付近に飛来する数千羽のハクチョウは全国的に有名であり、地域住民に親しまれている。
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写真1 最上峡と舟下り |
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写真2 スワンパークと白鳥 |
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4)歴史・文化
最上川は、松尾芭蕉をはじめ古今の多くの文化人により詩歌が歌われているなど、歴史的・文化的資産を有している。現在※4でも、校歌に「最上川」が織り込まれている学校が、県内小・中・高合わせて107校あり、古くから学校教育の中で親しまれてきた。
また、古くは舟運(しゅううん)が栄え、19世紀初頭まで上流部から京へ米・紅花(べにばな)・アオソなどの特産物を舟で積み出し、鮭川からは金山杉などの木材を筏に組み酒田港まで下し、帰路には上方の塩や木綿等が搬入された。さらに、北前船により仏像、梵鐘(ぼんしょう)、石造物が持ち込まれ、また、県内の祭りに京都・祇園祭りの影響がみられるなど、物資の輸送とともに文化の交流がもたらされた。
明治時代に入り、鉄道の整備が進められ、奥羽本線の開通や酒田・新庄間の陸羽西線の開通に伴って、最上川の舟運はその歴史的使命を終えたが、近年では観光資源として姿を変えた舟下りが3つの区間で盛んに行われている。
現在の最上川は、市街地周辺の広い高水敷には運動場や公園等が整備され、スポーツや灯籠流し等の地元伝統行事等に利用されているほか、舟下りやカヌー、漁業等の内水面利用も盛んであり、特に秋の風物詩となっている芋煮会(いもにかい)シーズンには、地域の交流の場として賑わいを見せるなど、現代文化の一面が最上川の中にうかがえる。
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写真3 松尾芭蕉の句碑 |
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写真4 川原を利用した芋煮会 |
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※1 狭窄部 |
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河川の両岸がすぼまって狭いところ |
※2 砂洲 |
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水の流れや風によって運ばれた土砂でできた洲 |
※3 高水敷 |
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河の中で普段は水が流れないが、洪水時に水が流れる部分 |
※4 現在 |
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平成9年度 |
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