震災伝承シンポジウム 参加申し込み

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一般セッション要約版

一般公開セッション
東日本大震災の教訓を伝える3.11伝承ロード
~産・学・官・民が連携した震災伝承の取り組み~


2019年11月10日に、宮城県仙台市で開催された世界防災フォーラム/防災ダボス会議@仙台2019の一般公開セッションとして震災伝承ネットワーク協議会が主催したパネルディスカッションが開催されました。同協議会会長の佐藤克英東北地方整備局長は、冒頭「東日本大震災の発生から明日で8年8ヶ月、大震災の記録や記憶の風化が懸念されています。震災伝承ネットワーク協議会は、震災の教訓を次世代に伝承していくことで防災力の向上や地域の活性化に繋げていく取り組みである3.11伝承ロードの構築を進めています。震災などの教訓を生かし一人一人が災害のリスクを深く理解し、命を守る行動を取るための意識改革をすることで、社会全体で災害に備える防災意識社会への転換が求められ、過去の教訓を生かし災害から命を守るためのメッセージを国内外に向けて発信してほしいと思っています。」と挨拶され、パネルディスカッションが始まりました。


【パネルディスカッション】

●東北の、全国の、それぞれの取組は・・・

東北大学 災害科学国際研究所 准教授 佐藤翔輔:
どうすれば過去の災害、過去の経験が伝わるかが研究テーマです。語り部の方が話した内容が受け手の身体や記憶に及ぼす影響に関する研究や、祭りによる過去の経験の伝承に関する研究、ウェブを使った災害の知識を問う取り組みもしています。


高知県黒潮町町長 大西勝也:
今日のパネラーの中では僕だけが被災経験のない未災地からの参加です。四国沖にある南海トラフという海溝で大地震が起こるシミュレーションで、黒潮町に示された数字は最大震度7、到達する津波高34.4m、そして高知県沿岸へ1mの津波が到達するまでの時間最短2分。この3つの情報が出て、大騒ぎになりました。
その後、町としても色々な取り組みをやってきましたが、一つだけご紹介します。世帯別津波避難行動記入シートです。世帯毎の避難環境をチェックするための取り組みです。このワークショップを300回くらいやったのですが、このワークショップに参加していただいた効果が一番で大きかったと思います。浸水区域の中に3,791世帯があるのですが参加率は65%ぐらい、カルテの作成率は100%になりました。行政が防災をリードし、何れかの時期に住民主体へと移行することが望ましいと思っています。


熊本県益城町 土木審議監 持田浩:
益城町は、熊本地震で前震と本震2回の震度7に襲われ、その後も2年間で4,500回ぐらい余震がありました。家屋の被害が町全体の98%、その内全壊が約3割という甚大な被害で、その中から、災害に強いまちづくり、日頃の準備、人づくり組織づくりの大切さといった三つの教訓を得ました。プラスアルファで今思うことが、本日のテーマである「伝承の大切さ」です。
益城町はインフラ整備が非常に脆弱な街でした。このため現在整備中である町の中心を通る県道熊本高森線の4車線化により町の中心部に、総延長3.5kmに渡って幅員27mの道路空間が出現し、これを防災空間の確保と合わせて賑わいづくりの中心軸にしていきたいと考えています。また住民と行政が一体となり災害に強い町づくりを進めていくために「まちづくり協議会」も立ち上げました。


宮古観光文化交流協会 学ぶ防災ガイド 元田久美子:
岩手県宮古市田老地区のご案内をしています。震災から約1年後にこの仕事を始めました。当初声をかけて頂いた時にはまだ家族が戻っておらず、とてもこういう仕事はしたくないと思っていました。その時思い出したのが、私の嫁ぎ先の父でした。戦争を経験し、昭和8年の津波も経験し、お酒が入ると毎晩語っていましたが、私は聞き流していました。人は、何の保証も無くても自分は大丈夫と思ってしまいます。津波の経験をしたからこそ、私が伝えていく番になったと思い、私たちの経験を一つでも活かしていただくためにご案内をさせて頂いています。


一般社団法人東北観光推進機構 専務理事推進本部長 紺野純一:
観光には人や地域を元気にする大きな力があると思います。沖縄や広島で平和の重要さを学ぶように、観光で3.11を語り継ぐことも大事です。近年、日本はインバウンドで大きく伸びましたが、東北は震災で落ち込み、2015年に震災前の水準は超えましたが全国的にみると未だ厳しい状況です。
東北は本当に魅力がいっぱいあります。環境省の取り組み「みちのく潮風トレイル」が今年6月に八戸市から相馬市まで1,025kmで繋がりました。「伝承ロードは」まさに東北の沿岸部をつないだルートですので、こういうものを活用しながら、震災の負の遺産をプラスに転じていく仕組みづくりに取り組んでいければと思います。


国土交通省東北地方整備局 企画部長 西尾崇:
東日本大震災では沿岸部へ行ける道が一本もなくなりました。当時は一面が瓦礫で覆われている状態でしたが、この瓦礫を排除し、救急車や自衛隊が通れるよう、「くしの歯作戦」と呼ばれる15本の主要な道路の啓開により緊急の救援ルートを確保しました。この作業には地元の建設業界の方々があたってくださいました。それから8年8ヵ月が過ぎ、この東北地域550kmの復興道路、復興支援道路の整備、壊れた堤防9kmや港を整備する計画を立て、現在約8~9割の整備が完了しました。


●教訓を伝え、活かし、備える

佐藤:今日のテーマは「伝承」「教訓」です。その教訓を活かし方や、教訓を伝承する意義についてご発言をお願いします。

大西:端的にいうと「備えておく」ということです。我が身を振り返った時に、本当に東日本を教訓として各種備えができているのか、あるいは行政組織としての備えが万全なのか。自分たちに必要なのは「被災地に学ぶ」という姿勢で、今年度からその作業をスタートしました。実際に被災された東松島市さんにご指導いただき、来年度は各種計画の改訂作業に入っていきたいと思います。東日本大震災を我が事として捉えて、備えておく。その自覚が持てるところまで到達することが、最大の教訓だと思います。

持田:益城町は熊本地震で先ほど紹介した三つの教訓を得ました。それを活かすにはやはり人が大事なのではないかと考え、「人づくり・組織づくり」に取り組んでいるところです。それが今後100年の復興の街づくりに繋がり、教訓を活かすことではないかと考えています。役場だけでできることではありませんのでオール益城で取り組んでいきたいと思います。

元田:先人達の残した言葉は活かしていかなければいけない。一つは「大地震の後には津波が来る。津波が来たら遠くではなくて高い所に逃げろ」、もう一つは「震度に関わらず揺れが長い時に津波が来る」ということ。実際その通りでした。ニュースだけではなく実際に足を運んでいただいて、そして見て触れて感じていただく。そういったことで私たちは皆さんとともにこの教訓を活かし、そして目に見えるものを一つでも多く残すことが大切だと思っています。

紺野:リアルな体験や教訓を直接語りかけるのが極めて重要だと思います。語り部のツアーは実際その3.11の津波を体験した人、あるいは目の前でその後の対応に当たった人たちが、直接その地に来た方々に語りかけるということが防災、減災につながっていくと私自身も確信をしております。教訓をどれだけ活かせるか、現地に行ってそれらを見ることは次のステップに繋がっていくと思っております。

西尾:災害は日本全国で頻発化しています。こうした災害では、守れたのに守れなかった命があります。昨年の広島の坂町小屋浦地区では数十人の方が亡くなられましたが、現場には111年前の水害碑がありました。こういったことをしっかり残していくことも非常に大事だと思っています。東北には活きた教訓があります。これを全国の災害対策、日本だけでなく世界各地の災害対策にも活かせないかと思っています。


●伝え続けるための課題とは

佐藤:皆さんがいろんな活動されていたり、東北を遠くから見ていただいたりしていて、その中での課題があると思います。その課題についてお話しいただきたいと思います。

元田:語り部が高齢化して次に繋げることができないという話をよく聞きます。これはボランティアで語り部事業をしているからであって、次に繋げるためには若い人たちが生活ができるよう、事業としてしっかりしていないと、後継者が見つからないのが現状だと思います。きちんと子供たちにバトンタッチできるように努めていきたいと思っています。

持田:熊本地震から3年半が経過して、町では震災直後の復旧期から復興をより強力に進めるという再生の時期に入ったと思っています。これから先の課題は、地震から得た教訓からぶれることなく、復興再生を進めていくということだと思います。この復興事業の終わりを見つめながら、伝承をどのようにやって行くのか、それを今から考えて布石を打っていくことが課題ではないかと思っています。

大西:やはり特に津波防災だと思います。命を左右するのは避難行動であって、ご本人の主体的な行動です。しかし主体的な行動とは難しいものであり、個人では限界があります。そのための備えとして行政組織は、さらに国家は何ができるのかだと思います。ずっと息の長い取り組みとしていくこと、人間の特性と戦いながらそれを継続していかないといけないと。これが恐らく一番の現状の課題ではないかなと思います。

西尾:私は去年からここで仕事をおり、東北に来てから太平洋沿岸を回らせていただきました。東北外にいると、被災エリアが広く「どこで勉強したらいいの?」となると思いますし、個々の発信力だけではなかなか弱い。やはり「東北全体としての発信力をどうやって強めていったらいいのか」が大きな課題かと思いますし、各地に散らばっている教訓を巡る仕掛けが必要かと思います。

紺野:やはり一番大きいのは、これから日本が迎える少子高齢化の問題の中で、防災あるいは減災をどう捉えるかということが極めて大きな課題になるのではないかと思います。特に東北は六県で約830万人ですが、被災地では人口減少が起きつつあります。それを観光という総合産業の力を活かしながらと相互交流や人口増に還元できないか、もう一つは行政と住民が共有化しながら取り組むことが、防災・減災あるいは観光にとっても極めて重要なポイントになっていくのではないかと思っています。


●3.11伝承ロードが目指すもの

佐藤:ありがとうございます。皆様からいろいろな課題をいただきましたが、震災伝承ネットワーク協議会でそれに向けた課題解決の取り組みをされていると伺っています。それをご紹介いただければと思います。

西尾:被災地にはたくさんの教訓があります。点在する教訓や施設をネットワークでつないで、震災伝承を効果的・効率的に行うことを目的に震災伝承ネットワーク協議会を立ち上げました。まず教訓がある場所を震災伝承施設として登録制度を作りました。現在200箇所ぐらい登録頂いています。また、統一のピクトグラムで施設の案内もしています。二つ目はこの施設を使いながら、防災プログラムや教育プログラムを作っていくということ。三つ目はツーリズムや観光、国際会議等との連携。この3つのカテゴリーの活動について協議会で議論しています。この活動内容について、議論または提案をいただけるとありがたいと思います。

紺野:私たちも修学旅行生にしっかり3.11の事象を伝えていこうということで、「だからこそ東北で学ぶ教育旅行」というものに非常に力を入れています。今年からは台湾や中国の教育旅行関係者に、現地に来て頂きながら、語り部さんのお話を聞いてもらい、先ほどお話しにございました伝承施設等々を、直接見てもらう仕組みを作っています。

元田:これからは修学旅行。子供達にたくさん来ていただくことが私たちの課題です。これまでご案内した175,000人のうち3割が学生さんですが、社会に出ればどこで暮らすか分かりません。そういった災害に備えられるように、これからの子供たちにこういった教育が必要ではないかと思っています。この伝承ロードを使っていただいて、たくさん有意義なものを持ち帰っていただきたいと思っています。

大西:語り部の方々が本当に主体なのか、主体は学ぶべき僕らにあるのではないかと思います。東北に足繁く通って、常に関心を持ち、そして東北の方に思いを馳せ、その教訓をしっかりと学ぶんだっていう姿勢を常に持ち続ける。行政のトップとしては、そういう意識を持ち続けていかなければならないと思っています。

持田:これからも同じように人づくり、組織づくり、街づくりを継続していくことが大切ではないかと感じ、「記憶の伝承」に取り組んでいるところです。新たな伝承の仕組みを作って継続していくことによって、将来に渡って一人一人が常に災害に対する備えに取り組むようになるのではないかと考えています。

佐藤:本日の総括をします。本日は、伝承・教訓がキーワードでしたが、「知らない」ことで命を失うことがない社会にというのが、パネリストの方々の共通メッセージだったと思います。伝承ロードのネットワークの一つ目の意味は、過去から今に繋ぐ、二つ目は地域同士が繋がる、三つ目は産学官民が繋がるということ。その手段として3.11伝承ロードを使ったり、応援したりすることで、災害に対する防災意識社会を作っていくことに繋げていただければということを結びにさせていただきます。